<87> #4

2010-01-05 20:50:10

関係性の中の「わたし」②終助詞(その3)

テーマ:エビデンスとしての日本語
「ね」と「you know」等をめぐる泉子・K・メイナード氏の実証的研究を紹介しておく。

そこでの分析資料は次のように得られたもの。
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日米とも、協力者は全員ネイティブの大学生で、同性の成人2人を1組として会話をしてもらう。男女10組ずつ計20組、全部で40名が参加。
会話は各組30分行ってもらい、その様子を録画。分析の対象にしたのは最冒頭の2分間を除外し、それに続く3分間。
20組×3分で、日米それぞれ40人の参加による60分間分のデータが用意されたことになる。
得られた「文」は日本語、1,244、英語、1,281。
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<「you know」と「ね」等の比較>
英語の1.281文中、「you know」の出現総数は、60。
いっぽう、
日本語の終助詞(間投助詞)は、1,244文中、「ね」364、「さ」148、「の」138、「よ」128「な」49、その他36で、計、864。
10倍以上の差が認められる。

また、注目されるのは、「you know」を使っているのは、女性の75%、男性の45%で、使用していない人もいること。「教養ある中流階級以上の人々がこれを蔑視し、嫌っている」(柳父章)とまで言っていいかどうかはともかくも、「you know」が日本語の終助詞のような、「それなしでは自然な会話が成り立たなくなる」といった存在でないことは確かなようだ。


<文末表現の比較>
日本語の1,244文の文末表現で最も多いのが終助詞付で終わるもの(436)。「じゃない」「でしょう」等の終助詞に働きの近いもの(121)。この二つを合わせると約45%にのぼる。

「~て」「~から」「~けど」などの接続助詞が文末に来ているいいさし表現(163)も目を引く。
メイナードは、
「終止形ではなく、「―て形」で終わる理由は、よく言われる様に発話の終わりに余韻を残し、相手に自分の見方や考え方を押し付けないようにするストラテジーと見てよいと思う。同じ様に接続詞で終わる表現も、文末をなるべくぼかして終わらせたいという意思の表れのように見える。」
と述べている。

以上のほかに、「言いよどみの類」、「わけ」「もの」などの形式名詞で終わるもの、のように、何らかの対人配慮的な要素が認められるもの(「聞き手めあての表現」(p.213))を足し合わせると、全体の約9割に達する。

いっぽう、対人的な配慮がゼロとも言うべき用言の終止形が他の要素を伴わないでそのまま文末表現となったケース(メイナードは「裸のダ体」と呼ぶ)は、145/1,244と全体の11.98%に過ぎなかった。

では、英語の文末表現を見た場合、どのようなことが言えるのか。
興味深いことに、英語では、「聞き手めあての感情表現のついたもの」が1,281文中29で、「命題表現のみ」が1,152と、日本語とその比率を逆にするのである。

なお、ここで「聞き手めあての感情表現」に数えられているのは、
1."you know" "right" "OK"等
2.付加疑問
3.相手をファーストネームで呼ぶ。
4."or something" "like"などのあいまいさ、躊躇を表わす表現を文末に加える。
5.接続詞"though"や"but"を文末につけて表現を和らげる。
等のものである。


参照文献
泉子・K・メイナード(1993)『会話分析』くろしお出版





1 ■なんてこと・・・!
驚きました!
日本語日常会話において「ね」の類の使用比率が9割近くにものぼるなんて!!
川端さんが著書で仰るところの「同調圧力」のからくりがなんとなく見えてくるような気が致します。
ただ、親しくない者同士でのたった5分の短い会話では、無理もなきかな、という感もいたします。

対して英語は、比率が逆ですか・・・!
違いがあることを前提にして、コミュニケーションを取る下地があるのでしょうか。
米国機関に勤めた経験のある女性ボスが「clearにしましょう」と口癖のように言っていたのを思い出します。
2 ■Re:なんてこと・・・!
>猫紫紺さん
本年もよろしくお願いいたします。

>ただ、親しくない者同士でのたった5分の短い会話
分かりにくい書き方になってしまいましたが、各組の会話は30分です。そして、うち冒頭部の3分を使った(最冒頭部の2分は会話が「温まっていない」かもということでカット)と。

「clearにしましょう」と口癖のように言っていたという米国機関に勤務経験のある女性ボスのお話、興味深いです。
今後、「あいづち」、対話と「共話」、日本語の弱命題性といったテーマをとりあげていきたいと思っていますが、そこで問題にしたいことと深くつながるお話だと思います。
いつもありがとうございます。
3 ■Re:Re:なんてこと・・・!
>まるおさん
>各組の会話は30分です。そして、うち冒頭部の3分を使った
早とちりをいたしまして、失礼しました<(_ _)>。
続編も、楽しみにしております♪

「clearにしましょう」の背景をご説明しますと
くだんの女性ボスは、斜めの関係でした。
その方は、組織は違うけれどたまたま同じフロアで仕事をなさっていて、所属グループは同じという関係でした。大ボスが実に日本的な人物で、採用面接の場でわたしがボーナスのことを聞いたところ、同席した常務が血相を変えて「その話はあとで・・」といい、結局ボーナスの条件はうやむやにされたまま入社した思い出があります。

柳下さんのブログに、興味深い事例が載っております。「clearにしましょう」と密接につながるお話だと思います。
http://ameblo.jp/wasabiabo/
真剣だからこその表情、気になる言葉

4 ■Re:Re:Re:なんてこと・・・!
>猫紫紺さん
超亀レス、失礼しました。
女性ボスのお話の背景説明、ありがとうございます。
常務の態度は、「悪いようにはしないからまあ任せておきなさい」の典型的なジャパニーズスタイルですね。

柳下さんのブログの「真剣だからこその表情、気になる言葉」、おっしゃるとおり、「密接につながるお話」ですね。

話の「内容」と話すときの友好的「態度」。
コミュニケーションにはどちらも大切ですが、日本語では「態度」のほうにバランスが傾く嫌いがあると言えそうですね。

柳下さんのお話は、私も考え込まされました。
ご教示くださり、ありがとうございます。