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2011-01-08 12:33:45

「PTAの『自動加入』は違法ではない」とする「回答書」(by神奈川県教委)の問題点(その2)

テーマ:PTA
<消費者契約法違反の問題>
神奈川県教委は、その主張の冒頭で、「消費者救済のために、不当な契約の内容の一部又は全部を無効等にするための法律である消費者契約法において」とわざわざ消費者契約法の解説をしてみせ、「消費者救済のために」というところを強調しようとしているようだが、同法の規定する「消費者」(そして「事業者」も)は、日常の用語法よりずっと広いものであることに留意すべきである。
それは、消費者契約法の所轄省庁(消費者庁)による「逐条解説」を読めば、誰の目にも明らかなことである。
消費者庁(内閣府)『消費者契約法逐条解説(完全版)』

同法によれば、お店等でものを買う人だけではなく、お金を払うことで対価を得る個人は、基本的に「消費者」なのである。
従って、病院の患者、対価を払うことで役所からサービスを受ける市民、労働組合や同窓会の組員、会員もみな「消費者」に含められている(その場合の、「病院・役所・労働組合・同窓会」は「事業者」となる)。

以下等を参照のこと。

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「事業」とは、「一定の目的をもってなされる同種の行為の反復継続的遂行」であるが、営利の要素は必要でなく、営利の目的をもってなされるかどうかを問わない。また、公益・非公益を問わず反復継続して行われる同種の行為が含まれ、さらには「自由職業(専門的職業)」の概念も含まれるものと考えられる。(「解説」p.26) ※太字化、色づけ、引用者。以下同。

(3)「法人」
自然人以外で、法律上の権利義務の主体となることを認められているもの。国・県・市・町・村のような公法人、特別法による特殊法人、民法第34条の公益法人、商法上の株式会社のような営利法人、協同組合のように個別法に根拠を持つ法人、特定非営利活動促進法人等に分類される。宗教法人や労働組合法第11条に基づく労働組合もこれに含まれる。(「解説」p.28)
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そして、PTAも同法の言う事業者である(よって保護者は「消費者」)ことが、同法逐条解説に以下の通り、明記されているのである。

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(4)「その他の団体」
「その他の団体」には、民法上の組合(民法第667条~第688条)をはじめ、法人格を有しない社団又は財団が含まれる。各種の親善、社交等を目的とする団体、P.T.A.、学会、同窓会等や法人となることが可能であるがその手続を経ない各種の団体がこれに含まれる。法人格を有しない場合のマンション管理組合もこれに含まれる。
(「逐条解説」第二条「条文の解釈」より)
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なお、この解説は、

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同法二条-2 この法律(第四十三条第二項第二号を除く。)において「事業者」とは、法人その他の団体及び事業として又は事業のために契約の当事者となる場合における個人をいう。
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の中に出てくる「その他の団体」についての解説である。


さて、神奈川県教委は、「消費者契約法において『自動加入』は、以下の理由から、違法であるとは考えておりません。」と言う。その理由とは、次の二点である。

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① PTAの「自動加入」においては、契約そのものを行っていないので、消費者契約法とは、問題の所在が異なる。
② PTAと保護者との間に、消費者契約法で問題とされている「事業者」と「消費者」との間に存在する「情報力・交渉力」の格差は認められない。
(引用に際し、番号を付した)
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まず①であるが、「PTAの『自動加入』においては契約そのものを行っていない」と言うが、では、なぜ一個人が「権利能力なき社団」によって、「契約なしに」、つまり同意なしに、一方的に会員にされ、会費を支払わせられなくてはいけなくなるのか? まったく理解に苦しむ主張である。

同法「逐条解説」を見ると、「契約が存在していないとされる関係」についての言及がある(「第一部 立法の背景・経緯」9 第147回国会における審議の主な論点 (2)定義(第2条)について)。
それは、「 医療について本法案の適用はあるのか。」という質問に答えた部分なのであるが、「医療においても基本的には消費者契約法が適用される」としながら、「契約が存在していない」ケースとして紹介されているものである。

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② したがって、医療についても、患者が入院等を強制される行政処分のように、医療機関と患者との間に契約が存在していないとされている関係(注)においては本法案の適用はないこととなるが、契約が成立しているとみられる場合には本法案の適用がある。

(注)医療機関と患者の間に契約が存在していないとされている関係

ア法律上、患者に受診が義務付けられる場合
1)患者が入院等を強制される行政処分の場合
根拠法:結核予防法(命令入所)
精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(入院措置)
麻薬及び向精神薬取締法(入院措置)
感染症の予防及び感染症患者に対する医療に関する法律
(入院措置)

2)予め法律で受診が義務付けられている場合
根拠法:労働安全衛生法(健康診断)

イ救急医療のような事務管理とみなされる場合

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これを見れば、法的な縛りがかかっている場合(+生命の存続にかかわる場合)に限り、「契約」の対象外とされていることが理解できるだろう。


② の主張に関しても、「逐条解説」をまったく無視した言い分と言わざるを得ない。
そもそも、先にも見たように、逐条解説には、PTA、労組、同窓会等が、同法第二条に定められている「その他の団体」として明記されているのである。それは、所管省庁である消費者庁が、PTA執行部と新入生の保護者等の間に「『情報力・交渉力』の格差」を認めているということである。
そのような「結論」に至るロジックは、消費者契約法の「適用範囲」をめぐる「解説」を見ても納得されるところである。

「適用範囲」に関しては「逐条解説」に次のようなことが述べられている。
少し引用が長くなるがお許しください。

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3 適用範囲の考え方(第一条)
 本法は、あらゆる取引分野における消費者契約について、幅広く適用される民事ルールであり、契約の締結、取引に関する構造的な「情報・交渉力の格差」が存在する場合が現実的にみて一般的であることに着目したものである。
 また、このような一般的な傾向をかんがみた上で、本法の適用範囲を決めるに当たっては、次のような考え方に基づいている。
 
 本法で取り扱う消費者契約(消費者-事業者間の契約)の適用範囲を決めるに当たっては、先述したように、取引に関する「情報・交渉力の格差」を念頭に置きつつ消費者、事業者の範囲を決める必要がある。
 本法における「消費者」と「事業者」を区別する観点は、取引に関する「情報・交渉力の格差」であり、その格差が生じる要因は、基本的には「① 同種の行為(契約の締結、取引)を反復継続しているか否か」であるが、要因はそれのみにとどまらず「② 社会から要請されている事業者の責任」という視点も必要であると考えられる。
 例えば、事業者は、当該業において事業そのものとして扱っているもの以外にも、当該業を運営していくために必要な商品・権利・役務に関する内容や取引条件、更には法律や商慣習について消費者よりも詳しい情報を持っているが、この部分については単に「同種の行為(契約の締結、取引)の反復継続」のみによってすべてが説明されるわけではない。
(後略)
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逐条解説ではこのような理解のもと、PTAをも「事業者」に含めていると考えられる。
(PTA執行部は毎年継続して、しかも複数人を対象に入会業務に携わるのに対して、保護者個人がPTAの入会に関わるのはほとんど一度限りであることを考えると、上のような考え方のもと、PTAが消費者契約法の対象に含められていることは合理的な判断ということができる。)

つまり、神奈川県教委の見解は、同法の所轄省庁による「消費者契約法逐条解説」に真っ向から対立すものなのである。
法律の所管省庁による「逐条解説」に明記されていることとまったく食い違う主張を地方の行政機関が(少なくとも何の情理を尽くした説明もなく)行っていいはずはないと思うのだが、どうだろうか。


以上、PTAの「自動加入」は消費者契約法の観点からも違法性は認められない、とする神奈川県教委事務局の見解は、特に同法「逐条解説」を無視した内容になっているという意味で大きな問題が認められるのではないか、ということを述べた。