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2010-01-25 19:33:55

関係性の中の「わたし」③ あいづち(その3)

テーマ:エビデンスとしての日本語
<留学生に聞く「あいづち」 韓国篇>

韓国語の相づちの頻度については、(その2)で見たように、研究者により日本語と同程度なのか日本語より少ないのか、意見が分かれている。

そこで、8名ではあるが韓国人留学生に聞いてみることにした。
どの学生も滞日2年以上で、学生生活やアルバイトを通し、日本語での会話経験も豊富である。


以下の相づちについての文章を読んでもらい、
「あなたの国の相づちは、米国に近いですが、日本に近いですか。その理由も答えてください。」
という質問に文章で答えてもらう形を取った。

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米国では、相手が話している間はあまり相づちを打たない。話し手は自分の用件を一方的にしゃべり、聞き手は黙って話しに耳を傾け、相手の話が一段落してから質問や返答をする。
ところが、日本人同士が話しているのを見ていると、相手が言ったことに対して、いちいち「はい」とか「ええ」とか言葉を返す。この相づちの習慣になれていない外国人が電話で日本人と話す時は、気をつけないと会話がうまく運ばないことがある。
日本人が話している時、

「あのですね」
「はい」
「実はですね」
「ええ」

というふうにいちいち返事をしないと、相手の日本人は不安になるらしい。「もしもし、聞こえますか」とか「わかりますか」などと聞き返す。すると、外国人は自分の日本語が下手なのかと心配になってしまう。 
逆に、外国人が話しているときは、まだ言いたいことが完全に終わらないうちに相づちを打たれると、「はやく、はやく」とせかされているようで、あまり気分がよくないという。

言語習慣の違いと言うのは、本当にやっかいなものだ。
(『日本語表現文型Ⅰ』一部改)
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(注:この文章は生越(1988)での韓国の大学生へのアンケート調査でも利用されているもの。)

さて、結果はどうなったか。

今回意見を聞くことができたのは先にも述べたように8名の留学生(2年生7名、3年生1名)であるが、8名のうち6名は目上の人に対する場合以外でも「日本ほどは打たない」ととれる回答をしている。
回答を紹介する。

・米国に近い。あいづちを乱用するのは品がない感じがする。
目を見て話を聞けばあいづちは必要ないと思う。
自分は韓国にいる時にはあいづちはあまりしていなかった。

・目上の人と話す時は少し控えたほうがいい。友達としゃべる時も日本ほどあいづちをうたないように思う。

・米国よりは打つが、日本ほどは打たないと思う。
日本みたいに毎回「はい」「ええ」とあいづちを打つと相手の話を邪魔する感じがし、少なくしたほうがいいと思うからだ。

・韓国では日本ほどあいづちを打たない。日本に来たばかりの頃は自分の話の邪魔をされているような気がしていた。最近はすっかり慣れてしまい、国に帰ってもつい相手の話の途中であいづちを打ってしまい、自分で戸惑うことがある。

・韓国は米国と日本の間くらいだと思う。あいづちを打つ人もいるし、打たない人もいる。ほとんどの人があいづちを打つ日本とは少し違う。

・韓国の場合は、どちらかと言うと米国よりは日本に近いと思う。日本ほどたくさんあいづちを打つわけではないが、ある程度相手の話を聞いているというのを示す。
そして韓国の場合、目上の人にあいづちをするのは失礼だとよく言う。


8名中1名は、生越氏の見解に近く、目上に対してはあまり打たないが、同等の者に対しては日本と変わらないととれる回答だった。

・韓国のあいづちは、米国にも似ているし、日本にも似ていると思います。例えば、友人と話している時は、「うん」とか「そうそう!」とか言葉を返す人があいづちをしない人より多いかもしれないが、親や自分より年上の人と話す時は、ほとんどあいづちをしない。もしあいづちをすると失礼なことだと思われている。
例えば、親に叱られている時に子どもがあいづちをすると、年上に対しての行儀があまりよくないと言われる。年長者が話をしているのに若造が割って入るなんてありえないことと思われている。


韓国も日本も変わらないと答えた学生が1名いた。

・韓国のあいづちは米国より日本に近い。
子どもの頃、目上の人が話をしている時相手を黙って見ていたら生意気に見えるから、軽くうなづくか「ネェ~」って相槌を打ちなさいと言われた。


今回の学生達の回答を見る限りは、ホンミンピョ氏や、齊藤明美氏の言うとおり、韓国と日本を比べた場合、目上に対する時だけではなく、一般に日本人のほうがあいづちを多用すると理解してよさそうである。